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路上一掃で、注目が高まるタイの物乞い問題

カンボジアだより

2010年07月7日

 

 こんにちは。甲斐田です。このほど帰国しましたが、3年近くのバンコク滞在期間、町を歩くと必ずといっていいほど物乞いの人たちを見かけました。昨年12月、物乞いを規制する法案が出され、今年の1月、第一回目の物乞いの人々の一斉検挙がありました。検挙された数百人の物乞いのうち、570人がカンボジア人でそのうち200人が子どもでした。彼らはカンボジアに送還されましたが、物乞いの人々を国へ送還するだけでは根本的な解決になりません。2月には、2回目の一斉検挙がありましたが、カンボジアとタイとの間で大きな経済格差があり、タイに住む外国人を含む人々が物乞いの子どもにお金を上げ続ける限り、カンボジアからタイへ物乞いにくる人々はなくならないでしょう。

今回、物乞いの検挙に関する記事をニューヨークのボランティアの方が翻訳してくださったので、ご紹介します。

 

 記事にも出てくるタイのフレンズ・インターナショナルは、親も子どもも物乞いをしなくてすむように、カンボジアから出稼ぎにきた家族のおとなにアクセサリーづくりのトレーニングを行っています。作られたネックレスやブレスレットは、リサイクルペーパーを使ったとは思えないほど、素敵なアクセサリーです。帰国の途につく日の531日、フレンズ・インターナショナル代表のタモーさんにあいさつがてら、今後、こうした子どもたちのために日本人に何ができるかを伺ってきました。そのうちの1つが、これらのアクセサリーを日本のフェアトレードショップなどで販売するということ、そして2つめが、物乞いの子どもにお金をあげないことが子どもを守ることになるというメッセージをインターネットなどで発信することでした。 

 

 私たちシーライツもカンボジアの子どもが物乞いしなくてもすむように物乞いに行く子どもたちとその家族、地域の人々を対象にさまざまな活動を展開していますが、より多くの方からの支援が必要となっています。また、タイやカンボジアへ旅行する方々のアクションも必要です。

 

このような活動への支援に関心のある方は、こちらのサイトをご覧ください。

http://www.c-rights.org/join/donation.html

 


路上で寝ている男の子の写真SDIM0068.JPG

写真はバンコクの路上で寝ている少年cシーライツ

 

路上一掃で、注目が高まるタイの物乞い問題

2010216日付けバンコク・ポスト エリカ・フライ記者

Street sweeps shine a light on Thailands begging problem February 16 2010, Bangkok Post

 

 111日、タイのサナン・カチョーンプラサート副首相は、スーツにネクタイそして覆面をして、入国管理局での記者会見を行なった。同局司令官を務めるウティ・リプタパロップ中尉も覆面姿で、さらに社会開発・人間安全保障省イッサラ・ソムチャイ大臣も同席した。両足のない人を含む557名のカンボジア人も同席していたことが、覆面姿でなくてはならなかった理由である。松葉杖や義足が山積みされたテーブルと報道陣のカメラを前に、政府高官は、人身売買および不法入国斡旋の一掃キャンペーンを開始したと話した。

 

 557人のカンボジア人(男性220人と女性227人、多くの老人や重度障がい者を含む)は、一掃キャンペーン開始の翌日、不法入国者として送還され、国境に置きざりにされた。彼らは不法に物乞いをしていたという理由で、記者会見の4日前にバンコクの路上一掃活動で検挙された。後の報道によれば、この取締りは、入国管理局と国家人身取引対策センターの陣頭指揮のもと、タイに物乞いを連れて来る人身取引および不法入国あっせん業者を対象に実施された。

 「物乞いは外国人観光客には迷惑な存在で、タイの観光イメージを傷つける」とウティ中尉は発言した。人身取引に対する取り組みが今回の厳重な取締りの理由だが、その一方で、各機関が関わり多くの年月と多額の資金をかけて作成されたタイの人身取引対策政策は、あえなく一蹴された格好だ。

 

 実際に毎日のように数百人ものカンボジア人不法入国者が送還されており、タイが自国の入国管理法を遵守するのに異議を唱える者はいない。しかし、この送還措置にあたって、保護の対象である人身取引被害者などのスクリーニング調査がなされておらず、このことがタイの人身取引取締法に違反していると問題視する専門家や団体も少なくない。

 

 カンボジア人の物乞いは人身取引の被害に遭いやすく、またタイには、そうした人びとを識別するための確立された政策がある。この地域の35の市民団体から成るネットワーク(Mekong Migration Network)は、この大量送還の数日後に、「正当なプロセスを経ないカンボジア人物乞いの送還」への抗議文を発表し、彼らが一概に犯罪者として扱われるべきではないとして、移住者の権利を尊重し、適切なスクリーニング調査を実施するよう要求した。

 

 大きな注目を集めた一斉検挙から数週間経っても、このカンボジア人への対処方法は多くの疑問が残る。クメール語を話すスタッフがいる女性財団(The Foundation for Women、以下FFW)やフレンズ・インターナショナル(Friends International、以下フレンズ)などのNGOが入国管理局のスクリーニング調査に協力するのが通例だが、同団体ですら、今回の557名には面接をしておらず、面接を受けた人がいるのかどうかもわかっていない。国連機関やカンボジア国内の反人身取引に取り組む団体も関心を寄せているが、送還された人たちの居場所や状況を把握していない。今回の送還について、入国管理局は、送還された物乞いの尊厳と自局の信望にかかわるとしてコメントを控え、基本的な統計でさえ提供することを拒んだ。社会開発・人間安全保障省は、入国管理関係諸局へのコメントを先送りにし、外務省は関心を示しつつも、状況については「なお闇の中」とした。タイとカンボジアの関係が特に緊張している時期の、この集団への異常なまでに仰々しい対応は、この送還が政治的演出であったことを匂わせる。

 

 政府の動機はともあれ、路上で物乞いする人びとと接触のあるNGO職員たちは、カンボジア人の物乞いが二国間の政治的緊張により不当な扱いを受けることを懸念しており、彼らの間で恐怖心が広がると同時に、地下活動が活発化していることに注目している。

 

新たな一掃活動

 

大量送還以降、警察は一掃活動を続けているが、人権団体の監視を受け、検挙した70人の物乞いたち(1歳未満から77歳)を入国者拘留所に収容している。

 

 FFWは、こうした人たちへの接触を許され、物乞いの女性と子どもたちにインタビュー調査を実施している。その調査からは、物乞いする人たちは自主的にタイに来ていて、人身取引あっせん業者の関与を裏付けられないことがわかる。さらに、子どもたちは互いに合図を送り、あらかじめ用意した回答をするので、回答を信用していいのか判断し難い。話したがらなかったり、答えをはぐらかしたり、クメール語通訳がいても質問がわからないふりをする場合もあった。また、こうした立場の弱い人たちは、安定した収入を得て仕事に戻ることだけを望む場合が多いので、社会福祉の提供やタイ政府のシェルター滞在を認められたとしても、そのことを理解できず、それを望まない可能性があるとFFWは指摘している。こうした問題をはじめとする様々な事情を背景に、人身取引の被害者の特定は困難を極める。

 

物乞いへの対処

 

 タイにおけるカンボジア人の物乞い問題を解決するために、FFWは血縁関係を明らかにするDNA鑑定や、タイ・カンボジア諸官庁間の協力関係の向上、立場の弱い人たちへの支援方法の拡充を提案している。現在のシステムでは、物乞いが検挙された際に、社会開発・人間安全保障省あるいは同省連携のNGOの職員(人身取引の被害者を識別する訓練を受け、クメール語を話す)がインタビューを行なう。そして被害者とみなされた人は、クレットラカーン保護職業訓練センター(女性と子ども用シェルター)か、パックレット・ホーム(男児用シェルター)に送られ、様々な支援や見舞金、あっせん業者を訴えるための支援をうける。被害者とみなされなかった人は、初めての検挙であれば(時に2度目の場合も含む)、ノンタブリ貧困者ホームに送られる。ここで越境に関するインタビューを受け、本国送還の準備が整うまでの数カ月間、宿泊場所と職業訓練を提供される。初めての検挙の場合、タイの社会福祉局とカンボジアの社会福祉省が協働して越境者の情報を収集し、家族や出身地を探し当て、本国送還の計画を立てる。何度も検挙されている人の場合は、入国者拘留所に送られ、送還されることになる。多くのソーシャルワーカーやNGO職員によれば、シェルターに拘束されて時間とお金を浪費せずに済むため、これは多くの物乞いにとって好ましい措置であるという。そして数日後にまたタイに戻ってくる場合が多い。

 

 カンボジア人の物乞いのバンコク流入は終わりがないように思われる。20回もタイに物乞いに来ている子どもたちもいる。タイ・カンボジア両国政府は2008年に物乞いの入国と帰還の管理向上に関する協定を取り交わしたが、ノンタブリ貧困者ホームのソムジット・タンティワニチャノン所長は、公的な手続きは依然として遅く、効果的かつ永続的な送還を実現するためのフォローアップのサービスが不足していると話す。

 

人身取引の対象にならない

 

 最近の調査では、カンボジア人の物乞いの大部分は、人身取引の被害者ではないと指摘されている。フレンズ(カンボジアで設立、現在は世界各地でストリートチルドレン関連の活動を実施)の2006年の調査報告によると、ほとんどの子どもたちが自主的にバンコクにやって来た両親と一緒に物乞いをし、およそ2割の子どもが、家族ぐるみの友人と称される血縁関係のないおとなと一緒という、人身取引の被害者かどうかを判断するには難しい状況で物乞いをしていた。「子どもたちは、搾取されるかもしれないとわかっていても、もっと稼げると思っているからやって来るということがはっきりしました。」とフレンズの国際調整員タモ・ワーグナー氏は言う。フレンズの調査からは、カンボジア人にとってタイでの物乞いは、地元の村で働くよりも、また合法・非合法に関わらずタイで最低限の賃金を得て働くよりも稼げる仕事であることがわかる。また、インタビューに応じたタイ人400人のうち8割がよく物乞いに施しをすると答えたという。

 

 この調査結果は、物乞いがカンボジアのギャングによる巧妙な組織下にあるという一般的な概念を大きく覆すものである。フレンズの職員たちの話では、路上で花やお菓子や小物を売るケースなど、ギャングがらみを匂わせる物乞い集団もある程度はいるが、個人の意思でバンコクに来るカンボジア人の方が圧倒的に多く、彼らは自由に行動し、好きな時間に稼ぎ、借家で自活しているという。物乞いを目的とする故意の手足切断については、証拠が確認されていない。

 

 それでもやはり、調査では物乞いする子どもたちの8割がやめたいと思っていることがわかっており、フレンズの国内プログラム所長のチャレームラット・チャイプラセー氏は、物乞い以外でお金を稼ぐ手段を用意する必要性を強調する。「誰も物乞いをしたくないのです。社会的に何の見返りもないのですから。しかし、ここに大金があり、カンボジア国内で他に選択肢がない限り、彼らはやって来るでしょう。」と同氏は話した。

 

(2010529日 NY翻訳グループ)

子どもの権利についての研修や人身売買・児童労働に関する子ども向けの啓発に必要な文房具を配布することができます。

童話や物語の本を5冊購入し、本が傷まないように補強してから図書室に届けることができます。

村の清掃と衛生について学ぶ「ゴミ拾いキャンペーン」を1回開催することができます。