カンボジアだより
2010年05月23日
こんにちは、筒井です。昨年度、シーライツは特別な事業として学校建設に取り組みました。この事業は、”ぽけっと”のみなさまが、「カンボジアに学校を建設し、現地の子どもたちへより良い教育の機会を提供すること」を目標として集められたご寄付によって始めたもので、シーライツは現地での事前調査から、役所や住民との話し合い、図面の作成、建設会社選び、モニタリングなどのさまざまな調整業務を担当しました。
*”ぽけっと”のウェブサイトはこちらです。http://www.project-pocket.com/
新しい校舎の前で手を振る子どもたちと教師 cシーライツ
子どもたちが安心して学校へ通えるようになるようご支援ください。
詳しくはこちら、http://www.c-rights.org/join/donation.html
地図中央にある灰色の太線がカンボジア(左側)とベトナム(右側)の国境
事前調査から贈呈式までのけわしい道のり・・・
事前調査ではスバイリエン州内のベトナムと国境を接している郡の役所を訪ね、担当者とともに実際に現場に足を運びました。その結果、高校1校と小学校1校の2件の新規建設が必要とされていることが分かりましたが、高校建設は近くの別の高校まで距離が遠いため、小学校建設はその地域に小学校が存在しないため、それぞれ建設をサポートしてほしいという要請でした。”ぽけっと”のみなさまと話し合った結果、プラサー小学校分校の建設を決定しました。その理由は、当時、プラサー村では子どもたちはお寺の隅に設けられたスペースで勉強を続けていたからです。
シーライツとして学校建設は初めての試みだったため、とまどうこともありましたが、学校の責任者と地元住民と話し合いを続けながら、昨年の9月にはなんとか校舎の図面ができあがり、10月には建設会社を選び、雨季の終わった12月には着工することができました。工事は予定通りに進み、今年の3月14日にはドナーの”ぽけっと”のみなさまにも現場までお越しいただき、晴れて贈呈式を開催することができました。
新しい校舎が子どもたちを守る
カンボジアでは小学校に入学して無事卒業できる子どもはそれほど多くありません。なんらかの理由で学校を途中で辞めてしまいます。ユニセフの『世界子供白書2009』によると、カンボジアでは小学校に入学した子どものうち最終学年まで学校に残れる子どもは約半数とされています。その背景として、家計を支えるために子どもが働かされること(児童労働)が主な理由としてあげられますが、プラサー村のように近くに学校がないような地域では、学校へのアクセスも子どもが通学するうえでの大きな障害となっています。
スバイリエン州の人々の多くは農家です。ただでさえ農地がせまく、土地がやせているうえに、灌漑(かんがい)設備が整っていないため、住民は毎年のように起こる旱魃(かんばつ)や洪水の被害を受けています。また、家族が病気になったり食べ物が足りないため土地を売ったり借金したりし、さらにその利子を返すために土地を失ったり借金を重ねたりする悪循環が起こっています。このように農業だけでは食べていけないだけではなく、スバイリエン州では農業以外の仕事をほとんど見つけることができないため、住民は安定した収入を得ることができません。
結果的に、子どもが厳しい家計のしわ寄せを受けています。カンボジアでは、子どもが親のために働くのは当然だとされ、家計が苦しいときは特に重要な働き手とみなされています。スバイリエン州は、首都プノンペンよりもベトナム最大の都市ホーチミンに近いためか、ホーチミンが主要な出稼ぎ先となっています。プラサー村はまさにベトナム国境沿いにあり、子どもが出稼ぎに出されるリスクが高い地域です。
ホーチミンで、カンボジア人が収入を得るためにとっている方法のひとつが物乞いです。小学校低学年のような小さな子どもにも可能な「仕事」とされ、中には子どもが物乞いで稼ぐ収入に頼っている家庭も見られます。物乞いには、大人の引率者が同行します。引率者は家族や親戚の場合もありますが、同じ村あるいは近くの村からやってくる場合もあります。
ホーチミン市内で物乞いをしている間、子どもたちは学校に通えないことはもちろんのこと、さまざまな危険と隣り合わせになります。IOM(国際移住機関)の報告書や私たちが実施した調査から明らかになったことは、子どもたちは引率者からは無理なノルマを与えられ、予定通りお金を集められない場合は殴られたり、遅くまで働かされたりすることもあります。また、路上に寝泊まりするため、心ない人からの暴力やスリなどにも常におびえて過ごさなければなりません。引率者とはぐれてしまった場合には、土地勘がないうえに言葉も通じず、子どもたちはとても危険な状態におかれてしまいます。
ベトナムの警察に捕まり、送り返されてくるカンボジア人の約7割が子どもです。IOMが実施した、帰ってきた子どもに対する聞き取り調査によると、学校が家から遠すぎて通えないと答えた子どももいました。学校が家から遠すぎて通えない場合、すでに説明した家計の苦しさと文化的な考え方が合わさって、ホーチミンへの子どもの物乞いがもっと増えてしまう可能性があります。したがって、プラサー村に小学校が建設されることによって、近くの子どもがお寺ではなくきちんとした学校に通えるようになるばかりか、危険な出稼ぎが減ることにつながると考えられます。
ついに校舎完成!
事前調査を行ったとき、プラサー村では42名の子どもたちがお寺で学んでいましたが、校舎が新しく建てられたことによって、付近の子どもが学校に集まるようになり、現在のところ子どもの数は45名となっています。新学期が始まれば、さらに子どもの数が増えることが見込まれています。
最後に、新しい校舎を使い始めた子どもと教師から声を紹介します。3月の贈呈式では、”ぽけっと”のみなさまの発案で、子どもたちが校舎の壁に絵を自由に描いたり、参加者全員がいっしょに踊ったりしました。そのときの喜びが伝わってくるようですね。
子ども:
新しい机に座っているとき、新しい学校ができたんだ!ととても嬉しくなります。お寺よりももっと快適です。教室の中は静かなので、お寺で勉強していたころよりも集中できます。本物の学校にいると、やっと本当の生徒になれたような気がします。学校の裏に行くと、この絵がずっと残ってくれればいいなと思います。みなさんはいつ戻ってくるのですか?またみなさんといっしょに踊りたいです!
教師:
子どもが毎日学校に来るようになって、私も大変嬉しく思います。かさねてお礼申しあげます。ありがとうございました。教室で教えていると、子どもたちが居心地よさそうにしているのがよく分かりますし、子どもたちはとても集中して私の話を聞いています。プラサー村の方々からもお祝いの言葉をいただいて、新しい学校ができたことを誇りに思います。喜ばしいことに、寺院で教えていたころは来ていなかった子どもたちが、新しい学校に通い始めるようになりました。新しい教室や椅子、机が好きだといってくれます。最後になりますが、みなさまのご健康と幸福をお祈りするとともに、今後とも応援してくださいますようお願い申し上げます。