カンボジアだより
2009年10月12日
毎年6月、米国務省は、各国の人身売買への取り組み状況を調査した結果を報告書にまとめて発表し、政府の努力に関する4段階でのランク付けを行っています。「ランク1」は、米国「人身売買被害者保護法」に基づく最低基準を十分に満たしている国、「ランク2」は、同基準を満たしていないが、同基準到達のため相当の努力をしている国、「ランク2監視対象」は、同基準を満たすために相当の努力をしている一方、成果が出ていない国、「ランク3」は、同基準を満たしておらず改善努力もなされていない国としてリストされています。
この報告書(通称:TIPレポート)に関しては判断基準があいまいなどの理由から批判もありますが、日本では、2004年に日本が監視対象国としてリストにランクされたことにより(ほとんどの先進国はランク1)、マスコミも政府も注目し、2005年、刑法が改正され人身売買罪の創設につながりました。
さて、ある国がランク3になると、米国の経済制裁の対象ともなります。実際、カンボジアが2005年にランク3に引き下げられたときは、ゆるやかなものではありましたが、経済制裁を受けました。その後カンボジアは、2年間、監視対象国としてランクづけされたあと、2008年は4年ぶりにランク2に格上げされました。にもかかわらず、今年は再びランク2の監視対象国として格下げされてしまいました。http://www.state.gov/g/tip/rls/tiprpt/2009/
今回は、それについての記事をボランティアの方が翻訳してくださったので紹介します。
2008年に人身売買取締法が改正されたにもかかわらず、なぜカンボジアはランクが下がったのでしょうか? 詳しくは、今年のカンボジアについてのTIPレポートの和訳をシーライツのホームページに掲載しましたので、そちらを読んでいただければ詳しくご理解いただけると思いますがhttp://www.c-rights.org/6-1/、この法律について警官が十分理解しておらず、人身売買業者ではなく、路上で働くセックスワーカーばかりが逮捕されているという状況があります。さらにひどいことに、その拘留中に警官や社会福祉省のスタッフからレイプされたり、お金を強要されたりしているひどいケースも数件報告されているそうです。
セックスワーカーたちのネットワークは、TIPレポートがこの点を指摘したことを評価し、レポートの提言にそってセックスワーカーを逮捕するのではなく、人身売買業者を逮捕するようにすべきだという意見を出しています。
http://www.sexworkeurope.org/site/index.phpoption=com_content&task=view&id=295&Itemid=186
人身売買取締法の執行の問題点については、今後もフォローしていきたいと思います。
カンボジアの子どもの人身売買を防止するためご支援ください。
詳しくは http://www.c-rights.org/join/donation.html をご覧ください。
図は、米国務省の人身売買報告書2008のカンボジアより
出所:www.state.gov/g/tip/rls/tiprpt/2008/
写真は、カンボジアのセックスワーカー。cUNICEF
出所:http://www.un.org/apps/news/photostories_detail.asp?PsID=39
人身売買レポートでカンボジア降格、後退の傾向
カンボジア・デイリー紙ウィークリーレビュー2009年6月13-19日号
ベサニー・リンゼイ、ヌウ・ヴァナリン記者
米国務省発表の人身売買に関する年次レポートにおいて、カンボジアは再度評価を下げられ、昨年の格上げからわずか一年での降格となった。
昨年は、人身売買を防止する最低基準の到達に向けた「めざましい努力」によりカンボジアは同省規定のランク2に格上げされていたが、2009年のレポートでは改善傾向の後退がみられ、ランク2の監視リストに載ることとなった。
同レポートでは、人身売買に関与する者(共謀する役人を含む)の有罪判決・処罰、及び被害者保護に対してカンボジア政府の取り組みに進展がないと報告されている。
ランク2(※1) は、人身売買を防止する最低基準を満たしてはいないものの、基準到達の適切な努力は行っているとみなされる。
米国務省は、カンボジア当局に対し2008年に人身売買取締法が施行されて以来、有罪判決件数が減少していることを指摘。2008年4月から2009年3月までの間にわずか12名しか有罪判決を受けておらず、これは前年同期間の52名を大きく下回る。また警察内部および司法関係者の間においても汚職がはびこり、カンボジアの人身売買問題が深刻化していると言及している。
レポートによると、警察や司法関係者を含む、多くの個人が直接的ないしは間接的に人身売買に関与しているという見方が一般的である。一部の地元警察や役人が買春宿の営業を黙認する見返りに金銭を強要したり、オーナーから賄賂を受け取っていたりすることは周知の事実であり、連日不正が行われていることもあるという。
レポートでは様々な事例が報告されており、買春や使用人労働を目的として売られた子ども、カラオケバーや買春宿で売春を強いられた女性、タイの漁船やマレーシアのプランテーションで労働させられた男性などが挙げられている。
レポートが公表された同日に米大使館のスポークスマンであるジョン・ジョンソン氏のコメントはなかったが、米大使館によるプレスリリースでは、前年度に人身売買に対する取り組みに後退が見られたとしている。
カンボジア内務省 人身売買対策局のビッス・キムホン局長は、新レポートの内容は認識していないが、警察は最善を尽くしていると述べている。「我々は、犯罪者を逮捕・起訴するために捜査及び取締りを強化している。人身売買の防止を目的として関連ニュースを放送して、人々に呼びかけている。」とも話した。
「2009年中に警察当局は、数多くの人身売買事例を取り締まり、防止してきた。」とキムホン氏は付け加えたが、外出先であったため具体的な統計は示されなかった。
閣僚評議会のスポークスマンであるファイ・シファン氏は、政府が人身売買に十分な措置をとっていないとする報告内容を容認できないとしている。「クメール文化では女性は尊重される」とし、政府は人身売買の防止に全力をあげているとシファン氏は話している。
カンボジアの人権団体Licadho(Cambodian League for the Promotion and Defence of Human Rights; 人権の保護と普及のためのカンボジア連盟)のナリー・ピロージュ事務局長は、「Licadhoはレポートにまだ目を通しておらず」、米国務省がカンボジアの格下げをした理由を把握していないとして、レポート内容についてはコメントを避けた。
(※1)Trafficking in Persons Report 2009 Tier Placements より