カンボジアだより
2009年01月26日
2008年12月31日のニューヨークタイムズに「カンボジア–買春と人身売買–拷問の声」と題された記事が掲載されました。ニコラス・クリストフ氏がシナ・ヴァンという女性について紹介しています。シナ・ヴァンさんが今現在買春宿から少女たちの救出のために勤務しているカンボジアのNGO、AFESIPはシーライツのパートナー団体です。シナ・ヴァンさんが現在に至るまでの自身の買春宿での体験やどうやって買春宿から解放されたか、そして現在についてなどについてインタビューを受けた時の記事です。が以下その和訳です。
貧しい国の買春街では、訪れた西洋人の男たちが、10代の笑顔のコケティッシュな女の子達に囲まれ、買春宿に誘われることが多い。男たちは、「女の子達は自ら進んで道に立っている」と思い込んでいる。彼らの思い込みが当たっていることもあるだろう。
しかし、女の子達の笑顔をそのまま受け取ろうとする人は、かつてその笑顔の女の子達の一人だったシナ・ヴァンと一度は話した方がいいだろう。
シナはベトナム人で13歳の時に誘拐されカンボジアに連れてこられ、薬漬けにされた。「目が覚めたとき、血まみれの裸で、白人の男と一緒だった」と彼女は言う。彼女の最初の性を買った白人の男の国籍を彼女は知らない。
その後、彼女は上品なホテルの上階に閉じ込められ、西洋人の男たちや、裕福なカンボジア人に体を提供させられた。「恐ろしいほどに殴られ、笑顔を強制させられた。」と彼女は言う。
「私が最初に覚えたクメール語(カンボジア語)の文章は『あなたと一緒に寝たい』だった。」と彼女は言う。「私が最初に覚えた英語の文章は。」-ここに書くことのできる言葉ではない。
シナが指示に従い、魅力溢れんばかりに男たちに笑顔を見せたのは、男たちが彼女を選ばず、客がつかなかったら、殴られたからだった。しかし、時々彼女は痛みに苦しみ抵抗し、その度に彼女は地下室の拷問室に引きずり込まれ、拷問を受けた。
「多くの買春宿は拷問室がある。」彼女は続ける。「拷問室は地下室にある。女の子達が叫んでも聞こえないから。」
多くの買春宿での拷問方法がそうであるように、拷問方法は電気ショックによるものである。シナは縛り付けられ、水の中に沈められ、その後、220ボルトのコンセントに差し込んだ電線で突き刺された。衝撃が鋭い痛みに変わり、時には尿や便がもれ、意識を失うことさえあった。
このような拷問が買春宿でよく使われているのは、彼女たちの容姿へのダメージがなく、商品価値を失わずに、苦しめることが出来るからである。
殴られたショックの後に、シナは、蟻のたかる木製の棺桶に閉じ込められた。棺桶は暗闇で、窒息しそうで、蟻を掃うために手を顔に動かそうにもそれができないくらい、とてつもなく窮屈だった。彼女の眼から蟻を押し流したのは彼女の涙だった。
彼女は一日中あるいは2日間に渡って棺桶に閉じ込められることも、多々あったという。
警察の摘発によって、シナはようやく解放され、長いこと見ていなかった日中の光に最初はまぶし過ぎて目が開けられないほどだった。家宅捜査は、カンボジア人のソマリー・マムによってなされた。ソマリーも買春宿に売られた経験がある。逃げることに成功し、学び、今では、強制売春廃絶に取り組むNGOの代表を務めている。
解放された後、シナは勉強を始め、徐々にソマリーの信頼できる仕事仲間になった。今では彼らは、買春宿のオーナーからの死の脅しに屈することなく、女の子達を解放するために共に働いている。ソマリーをこらしめるため、買春宿のオーナーは彼女の14歳の娘を誘拐し、残忍な行為をはたらいた。また6ヶ月前には、反人身売買活動家(私がシナを取材したときの通訳)の娘が行方不明になった。
筆者は、買春宿の地下にある拷問室について以前聞いたことがあったが、実際に見たことは一度もなかった。数日前、シナは、彼女が救われた買春宿に連れて行ってくれた。買春宿は撤去され、地面がむき出しになっていた。
「私はこんな感じの部屋に居たの」 指さしながら彼女は言った。「この部屋で亡くなった女の子達は沢山いると思う。」さらに加えて、「寒気がするし怖い。今晩寝られない」
「早く写真撮って」彼女は加えて、道に並ぶ買春宿を指さしながら言った。「ここに長居するのは危険だわ」
シナとソマリーは、冗談のツボを心得ており、お互いにからかい合っていた。未婚のシナは、ソマリー本人に向かっていった。「少なくともあなたが助けに来るまでは十分すぎるほどの男がいたんだから!」
性産業における人身売買は21世紀版の奴隷である。19世紀の奴隷との違いの一つは、彼女ら現代の奴隷の多くは、今世紀後半にはエイズによって亡くなることだ。
性産業における人身売買について私が報告する時はいつでも、女性たちが受けた苦しみに絶望するよりも、むしろソマリーやシナのような活動家の勇気に励まされる。彼女らは、未だ買春宿に囚われている他の女の子達の救助のために、自分たちの命へのリスクを背負っている。次回の記事では、買春宿で想像を絶するような拷問を受けて、現在シナがその回復を手伝っている女の子について紹介したい。シナ自身の経験は、その少女にとって、どんな心理学者にもできないようなやり方で希望を与えることができている。
(和訳以上)
買春宿から少女たちの救出のためにシナとソマリーが仕事をしているのは、カンボジアのNGO・AFESIPという団体です。AFESIPはシーライツのパートナー団体でもあり、シーライツは、AFESIPによって運営されている人身売買被害女性保護施設における保育支援をしています。この保護施設には子ども連れの女性が多く保護されており、女性たちが、職業訓練に集中するため、また女性たちの子どもの発育などの子どもの権利のために、保育施設を設け、保育士の給料や子どものオムツ・ミルク代などの支援をしています。
シーライツのAFESIP保護施設への保育支援が継続されるよう、皆様のお力添え頂けましたら幸いです。
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