カンボジアだより
2013年10月25日
先日、事業地の学校の一つであるフンセンタナオ小・中学校で、セミナー『子どもの教育を受ける権利』を開催しました。主催者は、この小・中学校で、当日は、小・中学生約300人、保護者や地域の人約200人が参加しました。
来賓として、コンポンロー郡の副郡長や、コンポンロー郡教育局の副局長、タナオコミューンのコミューン長などが参列しました。
まず、副郡長がカンボジアの教育省の教育方針を話し、子どもの権利を守っていきましょう、子どもたちを学校に通わせましょう、と呼びかけました。
このセミナーは、学校(教師)と保護者の「意見交換会」も兼ねており、保護者から特に授業の質や教師の態度に対する質問や不満が挙げられました。教師は「これまで指導が足りなかったことを振り返り、地域の皆さんの協力のもとに、これからは教育に力を入れていきます」と回答していました。
次に、保護者の数名に、スピーチしてもらいました。
最初に、現在10歳で小学校4年生になる男の子シナ君をこの小学校に通わせている母親が前に出ました。シナ君は、シーライツのピアエデュケーションの活動に参加してくれていて、自分の意見をしっかりと持っている聡明な男の子です。母親は「子どもには将来、『公務員』のような安定した職業に就いてもらいたいです。そのためにも、できるだけ中学校、高校まで通わせたいと思っています。」と発言しました。
次に、シーライツと一緒に生計向上の活動をしているキーファーマーの男性が前に出て、「自分には、多くの借金があって生活はとても苦しいですが、子どもを学校に通わせています。自分は、十分に読み書きができないので、教育の大切さを理解しています。これからも、子どもが学校に通い続けられるように、頑張っていきたいと思います。」と発言しました。
最後に、もう自分の子どもはタナオの中学校を卒業してしまっているという女性が「私の子どもは今、大学生です。私は自分の子どもには高校を卒業したら働いてもらいたいと思っていたのですが、子どもがどうしても大学に進学したいというので、プノンペンに行かせています。生活は大変ですが、子どもを支えたいと思います。」と発言しました。
スタッフの上田が「子どもの権利」について説明し、「子どもの権利を実現するために保護者やまわりのおとなたちは何をしなければならないでしょうか?」、と問いかけました。
続くセッションでは、上田がマイクを持って会場をまわり、子どもたちに「将来は何になりたいか」と質問しました。そして、その子どもの保護者がこのセミナーに参加しているようであれば、保護者に「お子さんがその夢を実現するために、あなたは親としてどうしたらよいと思いますか?」と質問しました。
こういった公の場で、親が発言したことによって、ほかの参加者が証人になりますから、保護者は頑張って自分のやるべきことをやっていかなくてはという気持ちになります。
13歳で5年生になる女の子が「将来は医者になりたい」と言いました。カンボジアでは医者になるためには、大学に8年間通わなければなりません。医者として独り立ちする頃には、もう30歳です。30歳と言えば、カンボジアの感覚では、日本の50歳くらいにあたります。村では、ふつう女の子は15歳くらいから働きに出るので、20代後半になってもまだ勉強を続けているというのは、一般的には理解を得られず、受入れ難いことでもあります。子どもにも親にも大変な努力が求められますが、この女の子には、夢を叶えるために頑張って欲しいと思います。そして、家族や親せき、周りのおとなたちが、彼女のことを支えてあげて欲しいと切に思います。
最後に、上田がセミナーに参加した子どもや保護者に向かって、「みなさんのお子さん、地域の子どもたちを受け持ち、教育していくのは、この先生たちです」と言って、フンセンタナオ小・中学校の先生たちを紹介しました。このように先生たちをあらためて紹介したのは、先生たちに、教育者として、また地域住民の1人として、人々の期待と責任を背負っているという自覚を持ってもらいたかったからです。
今回のセミナーでは、「教育が大切だ」というメッセージと教育の権利を子どもたちに実現することを公に宣言し、保護者を含めた地域の人たちと教師に理解と責任意識を求めることができました。とても有意義な機会を持つことができたと思います。