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子どもたちの十分に食べられる権利を守るため-農民の代表のキーファーマーを選んで育てる

カンボジアだより

2012年12月26日

 

子どもたちの十分に食べられる権利を守るため-農民の代表のキーファーマーを選んで育てる

 みなさまのご支援により、シーライツはカンボジアで大きく分けて2つの活動を行うことができています。
1つは、経済的な理由で、住民が子どもを連れてベトナムへ違法な出稼ぎを繰り返す家庭に、日々の食糧を確保し、生活の基盤を立て直してもらうための活動です。もう一つは、違法な出稼ぎに連れていかれるために、子どもが学校に通うことができない多くの家庭の子どもと親に対して、子どもを学校に通わせることの大切さを理解してもらう啓発活動です。

 世界銀行などが使っている国際貧困ラインとは、一人当たり一日1ドル(約81円)以下で生活をしていることであり、カンボジア全体の3分の1の人がこの貧困ライン以下の生活を送っています。事業対象地のスバイリエン州、コンポンロー郡、タナオコミューンからベトナムへ出稼ぎに出る住民の多くが、家族全員で国境をわたります。中でも貧困が原因で出稼ぎに出る世帯数は、タナオコミューンから違法な出稼ぎにでる全体数の3分の2を占めていると言われています ①)。スバイリエン州社会福祉局が把握している統計では、2006年~2008年の間にベトナムで物乞いなどの違法労働を行い、カンボジアに送還された人たちの約56%にあたる1292名は、シーライツの事業地域の出身です。タナオコミューンの人口が約8,000名ですので、約16%の人たちが違法な出稼ぎが原因でベトナム当局に拘束されたことが分かります。

 現在、実施している事業で対象にしている貧困家庭とは、1)一年を通して半年以上、十分に食糧を確保することができない人たち、2)食糧が不十分な上に借金を抱えている人たちを指します。この事業では、まず、この食糧不足の状況を改善するため、農法を改善し、収穫を増やし、借金をする必要のない状況にしたいと考えています。

 農業技術を改善することは基本ですが、活動が続いていくことも重視し、地域の人たちが支え合う仕組みをつくることで、シーライツの支援が撤退した後も農民自身が活動を続けていくことを確実にしたいと思いました。そのために、地域の住民の中でリーダーとなる農民を育て、その農民リーダーたち(「キーファーマー」と呼んでいます)が他の農民に指導し、グループとして長く活動する仕組みをつくることにしました。

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キーファーマーとしてふさわしい人材を選出するために
村人たちにインタビューをしてまわりました。 cC-Rights

 農民リーダーとしてふさわしい人物像を描くのはシーライツの職員です。担当職員たちと相談し、以下のような人材が適任と考えました。
・村人から信頼されている
・コミュニケーション能力に長けている(よく話をする、人の話を聞く、辛抱強いなど)
・モチベーションが高い、主体性がある、アイデアがある、観察力がある
・学歴は問わないが読み書きができる
・農業の経験者で、研修で学ぶ知識や技術を実践できる土地を確保できる
・性別は問わない
・18歳以上
以上の条件を満たす人材を探して、村中をインタビューしてまわり、村人たちから推薦された人たちの家々を訪問してその家の状況を観察しました。キーファーマーとして学ぶことを実践していくことができるかどうかの最終判断の材料として、現在、どのように自分の家や農地を管理しているかを観察しました。家や庭は管理されているか、少ない選択肢からアイデアを持っているか、狭い土地を利用して農作物を作っているか、これまでどのような農業活動を行ってきたかなどについてインタビューを行い、キーファーマーとしてふさわしい人たちか、職員で検討しました。

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選出されたキーファーマーを集めて。
シーライツの事業と活動説明会を行いました。 cC-Rights

  最終的に推薦された16名の農民を招待し、翌日、シーライツの事業と活動説明会を実施しました。シーライツの設立の経緯、団体の事業の目的、活動内容を説明し、今後、キーファーマーとして活動し、他の農民を指導し、グループとしてまとめてくれるよう呼びかけました。最終的に全員から同意を得ることができ、自薦・他薦でキーファーマーたちを選ぶことができました。

 キーファーマーが選ばれた後、彼らを対象に、農作業の時期に合せた技術強化の計画を立て、トレーニングを開始しました。トレーニングの内容は、地域の人々を対象に食糧や生産に関し、どのような問題を抱えているかの聞き取り調査を行うことでした。

 その結果、タナオコミューンでは生産性の低さよりも、投入するものが多くて農業方法が非効率になっていることが問題だとわかりました。例えば、化学肥料の使用量は、全国平均の10倍にもなり、収量を上げるよりも土壌汚染に繋がっています。農業をするためのコストがかかりすぎ、生産性を上げることができていないのです。世帯数2000ほどの村(人口約8,000人)で、合計約3,500万円分もの化学肥料を投入しています。これは尋常な数字ではありません。

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トレーニングで有機肥料の作り方を講義しました。
かたつむり・沢ガニ・パパイヤ・パームシュガー・水を混ぜ、
10日間発酵、その後、原液を薄めてから畑に散布します。 cC-Rights

この結果を踏まえ、第一回目のトレーニングは、化学肥料と有機肥料の利点と問題点に関する比較を行いました。また、伝統的な手法を用いた農法の問題分析についてトレーニングを行い、各家庭を訪問しモニタリングを行いました。

 また、トレーニングでは、キーファーマーたちが対象世帯へ技術指導をすることを想定し、説明や発表の仕方を研修しました。参加者全員で、他の村人たちにわかりやすい説明をするにはどうのようにすればよいか、話し合い、アイデアを出したあとにその練習をします。

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トレーニングでは、グループディスカッションを取り入れたり、
人前で意見を発表するなど、キーファーマーの能力強化の
ためのいろいろな手法を取り入れています。 cC-Rights

 家庭訪問を通して実施したモニタリングでは、トレーニングに参加した全員が有機肥料を作り、自分たちの田畑で使用していました。このように指導したことの一つ一つを実行に移す農民の人たちの姿勢に、シーライツへの信頼を感じ喜びを感じる毎日です。

(カンボジア駐在スタッフ・上田美紀)

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①2011年3月、スバイリエン州コンポンロー郡社会福祉局職員とのインタビューにて

子どもの権利についての研修や人身売買・児童労働に関する子ども向けの啓発に必要な文房具を配布することができます。

童話や物語の本を5冊購入し、本が傷まないように補強してから図書室に届けることができます。

村の清掃と衛生について学ぶ「ゴミ拾いキャンペーン」を1回開催することができます。