カンボジアだより
2012年09月23日
カンボジアでは、貧困が原因で学校に通うことができない子どもたちが、いまだにたくさんいます。
シーライツの活動地であるスバイリエン州タナオコミューン(集合村)はベトナムとの国境沿いに位置し、同州の貧困率22%であるのに比べ、同比率が33%という貧しい地域です。このような貧困から抜けだそうとして、経済発展が著しいベトナムへ違法な出稼ぎを繰り返す家族が後を絶ちません。このような家族は、多くの場合、家族全員で国境をわたり、同行する子どもたちは、物乞いをさせられたり、安い労働力として農場で働かされたりし、違法就労、児童労働、人身取引の被害者として搾取され続けます。
物乞いをさせられる子どもたちは、赤ちゃんや幼児のころから物乞いで一家の生計を支えます。十代になり、物乞いで稼ぐことが難しい年齢になると、道端で宝くじ売りや、農場の仕事をさせられるようになります。ひどいケースでは、物乞いができない年齢になると、今度は自ら子どもを産み、赤ちゃんを抱えて物乞いをするようになります。このような子どもたちは世代を超えて物乞いを引き継ぐようになり、永遠に就学の機会を失い、一生物乞いを続けることになります。
2009年に発行された世界銀行の調査 によると、カンボジアの人口の34%は、いまだに一日0.6ドル以下の生活を強いられています。家族5人の場合、1カ月の必要経費は約100ドル(約8000円)になる計算です。物乞いをする子どもたちとその家族は、一日に平均5ドルから10ドル((約400~800円)の収入を得るそうです。このため、人びとは物乞いをすれば裕福な生活ができるような錯覚を持ちますが、ベトナムの都市で一家全員が生活をするには出費がかさみ、ベトナムへ行くための交通費、毎日の食費と借金返済で収入のほとんどを失うそうです。
村に滞在すれば自給自足が可能ですが、多くの貧しい農民の場合、これまでの稲作の農法では収量が低く、農法を改善しない限り貧困から抜け出すことはできません。
行政の対策を期待したくても、カンボジでは、依然として行政の能力が低く、公務員の給与は農業などの副職をしなければ生活できないほど低く(約40ドル)、仕事に専念できるような状況ではありません。また、中央省庁から遠い赴任地で仕事をする地方役人への技術支援はほとんどなく、税収入がないに等しいカンボジアでは、予算や活動費もままならない状況です。この結果、行政が実施しなければならない、貧困家庭への支援や雇用対策などの具体的な政策を実施できていません。
そのような中、シーライツは、子どもたちが地域にとどまり学校へ通えるようにするための対策として、違法な出稼ぎと児童労働を子どもにさせる親たちに対する啓発活動と経済的自立を支援することを地域住民と地元の教師たちに提案しました。
今年、シーライツがまず実施すべき活動は、保護者が食べていけるだけの米を収穫できるようにすることだと考え、活動地域で実施されている農法を調査し、改善策を提案するトレーニングを実施しました。
(トレーニングの様子)
これまでタナオコミューンでは、1ヘクタールあたり20袋~30袋の科学肥料を散布していることがわかりました。これは、全国平均の10倍の量で、この地域全体だけで約40万ドル(3200万円)もの金額が投入されていることが判明しました。これは金銭的な負担になるだけではなく、土壌が痩せる大きな理由ですが、借金をしているベトナム商人たちに言われるまま肥料を購入し続けていると思われます。収穫が終わると、農民は収穫したコメを現金に換え借金を返済しなければなりません。一般的に収穫の80%はこの科学肥料と農薬の支払いにあてられ、農民が所有する土地が多いわりに貧困率が高い理由の一つは、この科学肥料と農薬に依存する農法のためだと考えられます。
他の問題として、この地域では直播の農法を使い、田植えをする習慣が少ないことや、田植えをしても種もみをまいて数カ月もたった幼稲を植え替えるなどの農法を用いることから、収量が低いことが挙げられます。日本のもみ収量は1ヘクタール約5.85トンですが、カンボジアの平均は約2.15トンという報告もあります。
シーライツの農業トレーニングは3部構成となり、実践を交えた体験型の形式をとります。トレーニング内容は次の通りです。①有機肥料の有効性と作り方。②苗床の準備と育苗、③発芽して10日~15日の幼苗を2本ずつ等間隔で田植え。
第1回目のトレーニングには、約25名の参加者が受講しました。トレーニングでは、地域の学校による協力を受け、学校の裏手にある約1ヘクタールの土地を使い、学校農場として田植えを行いました。今後もこのような地域の協力を仰ぎながら、農民たちがトレーニングに参加し、情報共有をできる場を提供したいと考えます。
(苗床つくりの様子。学校の敷地の一角を整備し種もみをまきました。)
また、今回のトレーニングでは、村人たちが有機肥料の導入によって支出を抑えることができるようになることを重要なステップだと考え指導しました。
(種まきから2週間後の幼苗)
このトレーニングで学んだ新しい農法と有機肥料を、今後は農民たちが自分たちの水田で実施ししていくことを期待しています。そのためにシーライツの農業担当スタッフが定期的に農民たちの家を訪問し、問題が生じたときの解決策を提案し、実践指導していく予定です。
(田植えをする村人たち。一列に並んで後退しながら数本ずつ苗を植えていきます。)
これらの農法が取り入れられれば、これまでの収量に比べ2倍~3倍の収穫が期待されることから、定期的なモニタリングを欠かさず、農民たちの生活を安定させるために力を注ぎたいと思います。この活動が実を結び、地域の人々が村で生活をしていても安定した収量を得ることができ、子ども達が出稼ぎにでることなく、学校に通うことができるようになることをめざしています
(田植えに参加した子どもに苗の植え方を教えるシーライツのスタッフ)