カンボジアだより
2011年08月23日
2010年度末に、スバイリエンにおける子どもの人身売買・児童労働防止活動のこれまでの成果と課題をふりかえる調査をおこないました。その結果、改善点や支援家庭のニーズがいくつか明らかになりました。今年4月からは、その改善点を実施するために、2010年度の事業地域(スバイリエン州チャントリア郡チャンリア、トゥールスデイ、サムラン、メサードゴークの4つのコミューン)でフォローアップ事業を行っています。
生計向上のための支援をおこなっている自助グループに聞き取りをしてわかった彼らのニーズの1つは、小規模なビジネスを始めたいと考えていることでした。しかし、貯蓄組合で積み立てたお金はビジネスを始めるには少額すぎるため、シーライツから元金を支援してほしいという希望が出されました。もう一つはビジネスを始めるためにトレーニングを受けたいということでした。フォローアップ事業ではその両方を6月に行いました。そこで今年6月に4つの自助グループを対象に小規模ビジネス研修を実施しました。
牛銀行と貯蓄グループ活動のフォローアップにおいては、孫ふたりを一人で育てているおばあちゃんなど、活動が直面する難しさについての報告が届きましたので、ご紹介します。
最後に生計向上支援と通学支援によって学校に行っている少女たちの一部をご紹介します。なお、今回の報告はカンボジア駐在の臨時スタッフの上田美紀とカンボジア人スタッフのブッティーからの報告をインターンの深川久美子が翻訳してまとめました。
1.小規模ビジネス研修
6月7日から10日にわたり、地域開発ワーカーのブッティーは、農村の貧困削減の専門機関からソッカーさんを講師に迎え、一緒に小規模ビジネスの研修を行いました。上記の4つのコミューンのタイマウ村、ドンタイ村、チェイ村、ディクラホム村の各自助グループ10世帯から全員40名が参加し、そのうち、17名が女性でした。
研修では、「収入向上」とは具体的に何を意味し、収入を向上させるためには、小規模ビジネスをどのようにして立ち上げ、うまく経営するべきかなどの説明がされました。研修の始めと終わりにそれぞれ約15分の事前テスト・事後テストが実施され、研修成果を確認しましたが、タイマウ村、ドンタイ村では9名が、チェイ村、デイクラホム村では5名が事後テストで合格するほど知識を得ていました。この小規模ビジネス研修が実際に各村でどのような成果を出すか、今後もフォローアップをします。
2.支援事業のモニタリングとフォローアップ事業:牛銀行活動と貯蓄グループ
6月13日から23日にわたり、ブッティーは、スバイリエン州チャントリア郡のチュレ、プレイコキー、チャントリア、トゥールスデイ、メサートゴーク、サムランのコミューン、バベット市のバティ・コミューン、コンポンロー郡のタナオ・コミューンで、①自助グループの収入向上、②牛銀行、③女の子の学校への出席率が改善されたかどうかの3点を確認するためにモニタリングを行いました。
牛銀行
牛銀行に関しては、子牛が生まれてうまくいっているグループがある一方で、親牛が感染病で死亡したり、逃げてしまったりして、牛銀行活動がうまくいかなくなり、活動を一時的に停止してしまったコミューンもあることが判明しました。
カンボジアの農村では、さまざまな理由でおばあちゃんに育てられている子どもを見かけます。プレイコキー・コミューンのティダ(仮名)(14歳)と弟のウェスナー(9歳)もおばあちゃんのサブーンさん(56歳)に育てられています。というのも、お母さんは病気で亡くなり、お父さんは家を出ていってしまったからです。シーライツはこの家庭に牛を支給しましたが、サブーンさんには稲作をする土地がなく、自家製のお菓子を売ったり、稲刈りの手伝いをしながら孫たちを養ってきました。
ブッティーが訪問したところ、残念なことに、ティダが学校へ毎日通っていないことがわかりました。サブーンさんに理由を尋ねると、「孫たちには学校へ通ってほしいけれども、食べ物さえ毎日確保できない今のままでは難しいです」との答え。ブッティーがHCCの施設にティダを預けることを勧めましたが、「家事の手伝いと老後の面倒をみてほしいため、預けることはできない」と断わられたそうです。このままだとティダは学校をやめざるを得なくなってしまうかもしれません。サブーンさん家族が安定した生活を送り、孫二人を学校へ通わせることができるようにサブーンさんの収入が上がるためにどうすればいいか、今後しっかり考えて解決策をみいだしたいと思っています。
貯蓄グループ
村の銀行から借金をすると、高い利子を課せられ、万が一借金が返済できなくなったら家を没収されてしまう可能性があります。このような最悪な状況を避けるために、自助グループ単位で積立金を集め、そこからお金を貸出す貯蓄組合をつくっていますが、金銭的に苦しい状況にある家族が助け合うことによって、対象家庭が貧困から抜けだすことをめざしています。たとえば、タイマウ村のヘム・ティンさんは、気管支炎にかかってしまった娘の薬を購入するために50,000リエル(約12ドル)を借りました。
しかし、貧しい家庭にとって2000リエル(40円)を積み立てることも簡単ではありません。プーマオーム村で、対象家庭を1軒ずつ訪問して直接話を聞いたところ、グループリーダーが集金をしに回った時、積立金を納めなかった家族があったり、積極的に積立ている家族が、積立を疎かにしている家族がいることを知り、活動を止めてしまったこともありました。さらに、このグループの積立金額が十分ではなかったため、何人かのメンバーは村の銀行からお金を借りていたことが判明しました。このような悪循環を止めるために、ブッティーは、グループリーダーに、毎月必ずミーティングを開き、各家庭の積立の状況を確認し、お互いアイディアを出しあうことを勧めました。
3.子どもたちの声
このように、収入向上支援においてはさまざまな困難に直面しますが、うまくいっている家庭の少女たちは元気に学校に通っています。そんな少女たちの一人を紹介します。サムラオン小学校6年生のコーン・ソフィアちゃん(仮名 13歳)は、「お父さんは以前工事現場で働いていたけれど、今は病気で働いていません。私が学校へ通えるように、お母さんがお父さんの代わりに村に出て、いろんなものを売って生活しています。私の家族はシーライツとHCCから牛や野菜の種、稚魚をもらって、とても助かっています。将来の夢は先生になることです。」と手紙に書いていました。
シーライツは収入向上の支援以外にも、通学支援として、お米を支給していますが、その対象となっている子どもたちの声も紹介したいと思います。チャン・ロムドルちゃん(仮名10歳)は「私は学校が大好きです。これからもずっと通いたいと思います。大きくなったら先生か看護師になりたいです。先生になることができれば、家族を支えるために収入を得ることができるからです。もしくは看護師になってお母さんが病気の時に世話をしてあげたいと思います。」と話してくれました。また、リー・チャンナ ちゃん(仮名 13歳)は、「私は、たくさんのことを学べるから学校が大好きです。中でも私は算数が一番得意です。将来は、工場で働きたいと思います。なぜなら、家族がお腹いっぱい食べられるように食べ物を買いたいからです。」と話していました。
シーライツは、カンボジアの子どもたちが出稼ぎに行かなくてもすむように、今後も現地の大人と子どもたちの声に耳を傾けながら、困難を乗り越えて、収入向上と通学支援活動を続けていきます。