お知らせ

カンボジアの孤児院は善意ある旅行者の財布を狙う

カンボジアだより

2011年06月21日

 

カンボジア事務所の長島です。

前回ご紹介した、子どもを守るためのヒントが書かれた、カンボジアへの旅行者用リーフレット「チャイルドセーフ・トラベラーガイド~カンボジアのストリートチルドレンを助ける7つの方法」で触れている孤児院ツアーについて、「孤児院ツアーって一体なに?」と聞かれたことがあります。カンボジアでは、観光客を積極的に招き入れて寄付を募り、子どものためにお金を集めるのではなく、子どもを使ってお金を儲ける孤児院ツアーが存在します。例えば、空港からタクシーに乗った時、運転手に孤児院に行かないかしつこく誘われ、行ってみると寄付をお願いされた人の話を聞いたことがあります。タクシーの運転手は孤児院から仲介料をもらっているそうです。孤児院ツアー・ビジネスは年々拡大していると言われていて、ユニセフによると、カンボジアの孤児院の数が過去5年で倍増しているそうです。今回は、その背景にはどういうことがあるのかが分かる記事を紹介したいと思います。

カンボジアの孤児院で生活している子どもは、両親または片親がいない(死別または、身よりがいない)、親はいるが貧困や虐待などの事情で孤児院に預けられている状況(*)で、記事にあるように大半の子どもには片親がいます。愛情を持って子どもを育てている孤児院ももちろんあり、学校に行けず働かされたり、売られたり、差別されたりするよりは施設で育った方がいいという考えもあります。子どもひとりひとりの状況によって何がその子にとってベストかは違いますが、子どもを施設で養育することは、最後の選択肢であるべきです。その代わりに、可能な限りコミュニティーで育つことができるように、養育者の収入や育児能力の向上を支援することがベストだとシーライツは考えます。

旅行している時に、孤児院訪問を勧誘されたら、この問題について考えてみてください。わたしたち、ひとりひとりの行動が、子どもが搾取されたり、親が子どもを安易に手放してしまうことを助長する可能性があるからです。

 

カンボジアの孤児院は善意ある旅行者の財布を狙う
The Independent 2011年3月25日
プノンペン ロバート・カーマイケル記者
http://www.independent.co.uk/news/world/asia/cambodias-orphanages-target-the-wallets-of-wellmeaning-tourists-2252471.html

カンボジア政府は、国内の12,000人の孤児の大半に少なくともどちらか一人の親がいることが明らかになった後、250施設以上の孤児院に対して調査を始めた。政府は、調査が完了するまでは子どもたちが適切に養育されているかどうかは分からないと話した。

海外からのNGOは、親が子どもを手放しやすくなるように孤児院が子どもに食料、住まい、加えてカンボジアでは特に大切な教育を約束するという甘い言葉を親にかけているのではないかと考えている。子どもを預かることのできたこれらの孤児院では、呼びかけに応じて施設を訪問する慈善団体や欧米の観光客からの多大な寄付を期待できるのである。
子どものための国連機関であるユニセフのカンボジア事務所所長リチャード・ブライドル氏は、調査では両親共に亡くしているのは孤児院の子どもたちの28パーセントであることが明らかになっており、少なくともどちらか一人の親をもつ残りの何千人もの子どもたちがなぜ施設内での養護下に置かれるのか疑問であると話した。ユニセフは、過去5年間で孤児院の数が153施設から269施設と倍近くに増えたことに懸念を示している。そのうちわずか21施設が公的施設で、残りは民間団体によって運営されており、その大半は宗教的奉仕活動に基づいたものなのである。

「施設におけるケアの主な支援者は海外のドナーであり、多くの施設は支援者を引き付けるため観光業に転向し、それによって子どもたちを危険に陥れている」とブライドル氏は話す。

過去5年間にわたるカンボジアの養護施設数の増加率は、同じ期間にカンボジアを訪問した旅行者の数の増加と一致する。カンボジアの三大観光地であるプノンペン、遺跡群のあるシェムリアプ、海岸リゾートのシアヌークヴィルへの訪問客は通常、民間の孤児院を訪れ寄付をしないかというリクエスト攻めに遭う。

ゲストハウスはたいてい旅行客に特定の孤児院を訪れるようにお願いするポスターを掲げている。プノンペンのある孤児院訪問を薦めるポスターには、英語を教え子どもたちと遊ぶことから、食料やおもちゃ、学用品や現金を寄付することにいたるまで、「いろいろなかたちで」助けることができると書いてある。別の孤児院では「カンボジアの子どもたちはあなたの助けを求めています!」と訴える掲示をしていた。ブライドル氏は、「善意を持って訪れた観光客やボランティアでさえ、子どもたちを家族から引き離すシステムを支えている」と話す。

「ユニセフはかつて孤児院は意味があったと認識しているが、施設における保護は最終手段とすべきだ。ひとり親もしくは地域住民によって養育されたほうが子どもたちにとって遥かに良く、コストも低くすむからだ。」とブライドル氏は話す。

ストリートチルドレン問題に取り組むNGOのフレンズ・インターナショナルのセバスチャン・マロ代表は、「孤児院観光ビジネスは、子どもたちを悪用する皮肉なマーケティング策略に過ぎない。このシステムは非常に単純で、みすぼらしく、寂しそうに見える子ども数名を施設に置き、観光客の気を引こうとしているだけだ」と話す。

観光客が渡したお金は通常子どもたちのためにはならない。理由は「そうしないと商売にならないからです。お金はどこかに行き、子どもたちは貧困に置かれたままで、みすぼらしいまま。それが観光客をより引きつけ、荒稼ぎをすることにつながるのだ」と話す。

(多田衣美子・訳 2011年4月25日)
*カンボジア語では、両親または片親がいない、何らかの事情で親から手放された子どものことを「
コッマー・コンプリア」と言い、そういった子どもたちが生活している施設は「マンドール・コッマー・コンプリア」と呼ばれています(マンドールはセンターという意味)。英語に訳すと「orphanage」という言葉は、現在、日本では、孤児院という言葉は使われず、「児童養護施設」という表現されるようになっていますがここではカンボジアでの文脈に合わせて「孤児院」と訳してあります。また、ユニセフの定義する孤児は、「片親または両親を失った子ども」で、フレンズ・インターナショナルは「死別または失踪により両親を失った子ども」です。

▼チャイルドセーフ・トラベラーガイドはこちらからダウンロードできます。
http://www.c-rights.org/childsafe/

▼カンボジアの孤児院について詳しく知りたい方はフレンズ・インターナショナルの「カンボジア孤児院の誤解と現実」をご覧ください。
http://www.friends-international.org/ourprojects/myth-realities_detail.asp

 

子どもの権利についての研修や人身売買・児童労働に関する子ども向けの啓発に必要な文房具を配布することができます。

童話や物語の本を5冊購入し、本が傷まないように補強してから図書室に届けることができます。

村の清掃と衛生について学ぶ「ゴミ拾いキャンペーン」を1回開催することができます。