カンボジアだより
2012年02月6日
2011年11月16日のニューヨークタイムズ(New York Times)に’The Face of Modern Slavery’と題された記事が掲載されました。ニコラス・D・クリストフ(Nicholas D. Kristof記者は、カンボジアにおける人身売買の実態をスレイ・パウという女の子の買春宿での生活と、そこから逃げ出し、C-Rightsが協力しているAFESIPが運営するシェルターで自分の未来を手に入れていく様子や現在の彼女の心境などを記しました。この記事では、現代の奴隷制度ともいえる極めて深刻な人権侵害である人身売買の問題を今こそ国際的な優先事項として取り上げ、廃絶するために立ち向かうべきであることを改めて伝えています。
この実態を知った誰もが、人身売買をなくすためにアクションを起こすことができます。一番簡単ですぐにできることは、この実態を人に広く知ってもらうように伝えることでしょう。あるいは、スレイ・パウのような境遇の女の子を偏見なく受け入れる社会をつくることかもしれません。
なぜ人は女性(あるいは男性)をお金で買うのか。その根源には、誰もが持っているかもしれない「人を支配したい、思いどおりにしたい」という思いかもしれません。もしかしたら、軽い遊び心で一時の快楽をお金という権力で買う「権力の間違った使い方」をしているのかもしれません。いずれにしても、人として尊重する気持ちが欠落していると思えてなりません。またわたしたちの無知がこのような悲しい現状を黙認しているのかもしれません。
一刻も早くこのような人身売買がなくなり、スレイ・パウのような境遇の女の子たちみんなが救出され、精神的・物理的なケアを十分に受けて自分で生き方の選択ができるようになってほしいと願います。(NY翻訳チーム 田中よう子)
【今日の奴隷制の実態~6才のときに売られ9才で逃げ出した少女】
The Face of Modern Slavery
2011年11月16日 by ニューヨーク・タイムズ
ニコラス・D・クリストフ記者
カンボジア・プノンペン
http://www.nytimes.com/2011/11/17/opinion/kristof-the-face-of-modern-slavery.html
私が人身売買という現代における奴隷制について書くと、人々は時々目を背けてしまう。だからこそ申し上げたい、目を背ける人たちよ、スレイ・パウに会ってほしいと。
スレイ・パウにとって、このインタビューはとても過酷なものだった。彼女はカンボジアの買春宿での人生を回想すると、すぐ泣き崩れてしまう。そうしていると、まもなく私の目にも涙が溢れてきた。
スレイ・パウがまだ6歳の時、彼女は家族によって買春宿へ売り飛ばされた。セックスについて何も知らなかったが、すぐに何のことであるか悟った。彼女の処女を買った西洋人のペドファイル※1がいた。買春宿の人に、ベットの上に裸で縛り付けられ、その西洋人男性がレイプできるように、大の字にさせられた。と彼女は話した。
「とてつもなく怖かった。『なぜ、私にこんなことをするの?』と、私は泣きながら尋ねた。」と彼女は回想する。
それ以降、スレイ・パウはとても若いことから、多くの客たちが彼女の体を求めた。毎晩20人ぐらいがレイプしに来たと彼女は記憶している。処女として売り出すために、この買春宿は彼女の膣を2回も縫った。このとてつもなく辛くて痛い慣習はアジアの買春宿では普通のことで、処女の女の子を求めて何百ドルも払う客がいる。
人身売買の被害にあった女の子たちは、ニューヨークであろうが、カンボジアであろうが、いずれは諦めてしまう。彼女たちは、社会や家族が自分を再び受け入れてくれることはないと思い、怯えている。しかしながら何故だか、スレイ・パウは諦めなかった。
彼女は何度も買春宿から逃げようとした。しかし、彼女は毎回捕まると、殴打や、電気ショックなどの容赦ない仕打ちを受けた。カンボジアでよくあるように、この買春宿も、反抗的な女の子たちの反抗する意欲を無くすために、独房に監禁して処罰を与えていた。
スレイ・パウはよく覚えている。(他の女の子たちも同様の証言をしている。)彼女が反抗するたびに、彼女は裸で暗闇に閉じ込められ、下水が半分入ったドラム缶に入れられ、下水の中には害虫とサソリが大量に入れられていて、幾度となく刺された。私は1、2時間くらいと思いながら、彼女に、「どのぐらい長くこのような体罰を受けたのか?」と尋ねた。
「一番長くて?」と、彼女は思い出しながら、「それは、1週間。」と答えた。
客がいるからということが、もちろん人身売買が続く理由で、客の多くは彼女たちが自らすすんで娼婦になっていると思っている。確かに、そういう女性もいるかもしれない。しかし、彼女たちの笑顔は必ずしも目に見えるとおりではない。スレイ・パウは叩かれるのを避けるために、よく媚を売ったことさえ憶えている。
「私たちは、顔では笑っていても、心では泣いています。」と彼女は言った。
しかし、この物語には勝利を収めた結末がある。スレイ・パウが9歳の時、監視の目を逃れて買春宿から逃げ出しすことができた。彼女は、ソマリー・マムが運営するシェルターに逃げ込んだ。ソマリーは、人身売買と闘う活動家で、幼少のときに売春させられた経験を持つ。現在、東南アジアの人身売買撲滅のため、ソマリー・マム財団を運営している。私が前回のコラムで詳しく述べた買春宿の急襲を主導した人物である。
ソマリーのシェルターで、スレイ・パウは英語を勉強し、人生が好転した。今は19歳になり、ボーイフレンドを作ることも夢見られるようになった。
「以前は男性が嫌いでした。なぜなら、彼らは私を殴ったり、レイプしたりしたから。でも今では、全ての男性が悪いとは限らないのだと思えるようになり、もし良い人がいれば、その男性と結婚したい」とスレイ・パウは言う。
ソマリーは、買春宿から救出されたスレイ・パウのような若い女性たちを組織し、しっかり教育して、人身売買撲滅に立ち向かわせている。何年間かこの女性たちを見てきたが、彼女たちは見違えるようになり、自分の力で成長している。
前回のコラムでは、ソマリーと私が関わった買春宿の急襲によって救出された、当時中学1年生の恐怖に怯えるベトナム人の女の子について書いた。アンロング・ベングの町におけるこの急襲は、大きな衝撃を与えた。社会的注目を集めたことにより、その地域の6軒以上の買春宿が、次のターゲットになることを恐れ、閉鎖に追い込まれた。この7年生のベトナムの女の子はソマリーのシェルターで、トラウマを克服し、回復に向かっている。そこでは、リティアという女の子が彼女をかわいがってくれている。リティア(現在15歳)は、「ソマリー・チーム」の中でも私のお気に入りの一人だが、それはおそらく、彼女がジャーナリストを目指しているからかもしれない。彼女は独学で、英語を勉強し、驚くほど上手になった。彼女は9歳の時に、ベトナムから売り飛ばされてきて、何年も買春宿に監禁されていたが、壁を登って逃げた。今は中学3年生でクラスでは1番だ。スレイ・パウ、リティア、そしてソマリーは、19世紀頃の奴隷制の名残りのような事態に遭遇している。しかしながら、現代における規模はますます大きくなっている。私の計算では、大西洋奴隷貿易のピーク時に新世界へ運ばれたアフリカの奴隷の少なくとも10倍もの数の女の子たちが買春宿に売り飛ばされている。
「現代の奴隷制」が国際的な協議事項として取り上げられることに疑いを持つなら、スレイ・パウのことを考えていただきたい。さらに、その数に何百万を掛算してほしい。彼女たちのような経験が、奴隷制ではないというのならば、その言葉にはもはや意味がない。今こそ、アメリカや全世界で、21世紀における廃絶運動家が活動すべき時だ。
(2011年12月15日 田中よう子・翻訳)
※1「ペドファイル」:子どもを性的欲望の対象とする人のこと。