カンボジアだより
2011年05月25日
カンボジア事務所の長島です。
カンボジアで人身売買の問題に取り組むオーストラリアのNGO、SISHAが警察と連携してタイに出稼ぎに行くカンボジア人を人身売買の被害から守ることができた事例を紹介します。被害が起きる前に人身売買ブローカーを摘発できたことは心強いニュースですが、逮捕されたブローカーがしっかりと処罰されることと、農村部での人身売買や安全な出稼ぎについての啓発で事前に被害を防止することも重要です。シ―ライツは今年度も引き続きHCCと協働で、人身売買の防止プロジェクトを行っていますので活動をご支援ください。
詳しくは、http://www.c-rights.org/join/donation.html
タイに向かったカンボジア人29人の人身売買を阻止
2011年2月21日
SISHA(Stop Human Trafficking and Exploitation:人身売買・搾取の阻止)
http://www.sisha.org/news-battambang-anti-human-trafficking-raid.html
2011年2月某日、タケオ州の29名がタイでの就労を求めて故郷を後にした。彼らを引率していたのは就職あっせん人5名。このあっせん人は米の収穫期が過ぎて間もない昨年11月に、農閑期の雇用を売り文句に村々を回った。29名の中には10歳未満の子どもと幼児が4名と、17歳の少年5名、12歳の少女もいた。不運にも彼らはこの仲介業者が実は人身売買のブローカーで、子どもたちがその後物乞いや児童労働、果てには性産業での労働を強いられるとは思いもよらなかった。一方、人身売買のブローカーもバッタンバン州の人身売買取締警察が彼らの後をつけているとは知らなかった。残念なことにこのような事例は頻発しており、こうした家族がなぜ出稼ぎに踏み切るかという疑問が浮かぶだろう。それは第一に、多くの家族にとって働き口が足りず、厳しい雨季の後には仕事がない状態になること。第二に利益目的の人身売買に関する教育を受けていないことが挙げられる。
cSISHA
SISHAのプノンペンでのプロジェクト「青少年および女性の権利計画」や、国際移住機関(IOM)、およびHCC(子どものためのヘルスケア・センター)などのNGOでは、カンボジアの各州において安全な出稼ぎに関するメッセージを広めると同時に、人身売買の現実について人々の認識を高める支援を行っている。
残念ながらこの重要なメッセージはタケオ州のこの家族には届かず、彼らは就業先について何の知識もないままタイへの出稼ぎを決めてしまった。
次にわいてくる疑問は、人身売買ブローカーの動機は何かということだろう。答えは単純に「カネ」である。国境を越えタイまで連れて来た出稼ぎ者一名につき100ドルの支払いが約束されている。
小さな子どもたちに付けられた100ドルという値札。彼らは物乞いのギャンググループに売られ、稼いだお金のみならず教育の機会と将来をも奪われていたであろう。17歳の少年の値札も100ドル。彼はタイの材木業者か遠洋漁業船に売られ、過酷な環境で長年にわたって肉体労働を強いられただろう。同じく100ドルで売られるはずだった12歳の少女の行く末は性産業。無慈悲な買春宿のオーナーの管理下で、普通の生活を送る望みを断たれていただろう。
バッタンバン州の人身売買取締警察は人身売買のブローカーが国境に近づいたのを警戒し、SISHAに支援を要請して摘発に踏み切った。警察とSISHAは一行を国境で足止めし、人身売買阻止に成功。人身売買人のブローカー5名(18歳~35歳)全員を逮捕した。
これは人身売買と闘うコミュニティの成功事例である。タケオ州の人びとは自分の家族や友人に何が起きようとしていたのかを知らされ、事前知識のない出稼ぎの危険性について説明を受けた上で村に帰還した。彼らの要望に応じ、SISHAは社会福祉省と協働?して17歳の少年3名をアフターケアする施設に送った。施設では重要な職業訓練と人身売買産業に関する教育を提供し、彼らが二度と人身売買の被害に遭わないよう努めている。12歳の少女も同様の女性専用アフターケアの施設に入った。
介入を行った段階では既に被害が発生しているケースも多い中で、今回の事例はSISHAとバッタンバン人身売買取締警察にとって大きな快挙であった。タイムリーな介入により少年少女が子どもとしての尊厳を傷つけられることなく、将来がより明るく豊かなものとなった。
(2011年3月29日 訳・植田あき恵)