報告
2016年06月28日
6月15日(水)に東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラムとシーライツの共同企画「子どもと向き合う人間の安全保障」連続セミナーの第3回目に参加してきました。
今回の講師は、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでアドボカシーマネージャーを務めておられる堀江由美子さんでした。
まず始めに、セーブ・ザ・チルドレンの団体概要について説明がありました。セーブ・ザ・チルドレンは、すべての子どもにとって生きる、育つ、守られる、参加する「子どもの権利」の実現を目指して1919年から約100年間にわたって活動しています。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは1986年に設立され、今年30周年を迎えました。また、世界人口の3分の1は子どもで、子どもの権利とビジネスにおいては、児童労働の他にも教育・環境・栄養など様々な面で課題があるということ説明がありました。
次に、「子どもの権利とビジネス原則」についてお話がありました。「子どもの権利とビジネス原則」は、2009年にビジネスと子どもの権利をつなげる枠組みの欠落が認識されたことをきっかけに、2010年からセーブ・ザ・チルドレン、国連グローバル・コンパクト、ユニセフが連携して企業や政府、400人の子どもとの対話を経て2012年3月にロンドンで発表されました。
原則は10に分かれていて、企業が子どもの権利を尊重する責任を果たすための3つの基本的な行動について示された原則1と職場・市場・地域と環境の3分野にわたる9原則で構成されています。今回は、堀江さんがひとつひとつの原則について、イケアやヤフーなど多くの企業の事例を挙げながら詳しくお話ししてくださいました。
特に印象に残っているのは、「原則6:子どもの権利を尊重し、推進するようなマーケティングや広告活動を行う」です。
ここでは、母乳育児を妨げる企業のマーケティング活動としてフォローアップミルク(6か月以降の子どもが飲む補助食品)を例に挙げた説明がありました。母乳代替品の販売促進に関しては、国際基準が設けられているにも関わらず守られていないという現状から、2016年に「乳幼児の食物に関する不適切な販売促進に関するガイドライン」が採択されました。母乳育児が困難な場合に補助食品は有効である反面、必要以上に取り入れるような広告活動を行うことは母乳育児の妨げになるということを学びました。
ちなみに日本では、広告に対する規制があまり行われていないそうで、取り組みの強化が求められます。
その後に、セーブ・ザ・チルドレンの原則の実践に向けた取り組みとして、サポートモデルや自己評価ツールの作成をスウェーデン支部が中心に作成し企業と連携していることについて説明がありました。
また、2020年のオリンピック・パラリンピック開催に向けて活発化する企業活動において、子どもへの配慮が重要であること、例えば建設や服飾・スポーツ用品において、児童労働、外国人技能実習生等の若年労働者や働く親のディーセント・ワークとワーク・ライフ・バランスを配慮することや、広告活動において差別・性的・暴力的・固定観念の助長をする表現に配慮することがあげられました。
最後に、日本の子どもの貧困に対して企業が出来る対応が挙げられました。貧困状況にある子どもは約6人に1人(2012年現在)と非常に厳しく、最近はメディアでも多く取り上げられています。企業は、ワーク・ライフバランスに配慮したり、シングルペアレントを雇用したり、政府に子どもの貧困問題に取り組むよう働きかけるなど、できることがたくさんあります。
質疑応答では、
学生や一般の参加者から
(1)子どもの権利に関してソーシャルビジネスは成り立つのか?
(2)中小企業にアプローチや連携はしているのか?
(3)政府や企業等に向けたアドボカシーだけではなく、消費者の意識改革への取り組みは?
(4)国際機関と開発NGO、人権NGOの活動はときに衝突することもあるが、企業とNGOはどのように連携しているのか。それぞれのNPOが得意な分野をいかして活動しているのか?
シーライツインターンのめぐみさんから
(5)児童労働をなくすための活動をするだけでなく、「子どもの仕事」として子どもにもディーセントワークを提供するということについて原則は対応しているのか?
など、多くの質問が挙がりました。
これに対して堀江さんから
(1)成り立つと思う。子どもの権利とビジネス原則では、子どもの権利の尊重(=負の影響を減らす)と推進(=自発的な行動)の両方に触れ、子どもの権利を守ることだけでなく、よい取り組みの後押しもしている。広告活動の禁止事項のリスト作成だけではなく、インセンティブを提供するなど、企業の良い取り組みを表彰することで推進していく。
(2)大企業に偏っているのが現状である。意識の高い中小企業では、子どもの権利について考えたり取り組んだりしている。中小企業にこちらから出向くことはあるが、伝える場が少ないことは課題である。
(3)学校で広告ガイドラインに関する出張授業をするなど、今後実施できれば良い。
(4)確かに、一つの活動だけ取り組む団体もあるが、幅広い活動に取り組む団体もある。セーブ・ザ・チルドレンでは、団体内で担当部署を分けている。企業との連携に当たっては、パートナーとして信頼されるようになることが大切。
(5)「子どもの仕事」と「児童労働」の見解についてはなかなか答えを出すのが難しく、セーブ・ザ・チルドレンの内部でもいろいろな考えの人がいるが、基本的には、各国の法律(何歳から働けるかは国によって異なる)に基づいて活動することになっている。
と回答がありました。
今回のセミナーを通して、子どもの権利とビジネスをより身近に感じました。
なぜなら、わたしは、消費者であり、アルバイトもしていて、そしてこれから社会に出て働く身にもなるからです。消費者や働き手として声を挙げたり、利益だけに捕らわれないやり方を取り入れたりするなど、自分にもできることがあると思います。実際に、ユースのメンバーで子どもの権利とビジネスについて考える機会を持ったあと、友人やアルバイト先で自分が話をすることで、周囲の意識に少し変化がありました。
また、堀江さんの「子どもにやさしい企業は持続可能な企業である」というビジネスに向けたメッセージも印象的でした。やはり、企業は利益がないと成り立たないので、子どもの権利に配慮することがただ「良いこと」であることだけでなく、企業の活動にどんなメリットがあるのかを同時に伝えることが大切だと思います。わたしも将来は、子どもの権利とビジネス原則を取り入れた職場づくりをしたいと思います。
資料:子どもの権利とビジネス
http://www.unicef.or.jp/csr/pdf/csr_outline.pdf
Youth for Rights(シーライツ・ユース) 西岡あゆみ
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