シーライツ「子ども参加」ガイドライン
「子ども参加」にとりくむときに注意しなければならないこと
~国際子ども権利センターの経験から~
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1.子ども参加の位置づけと目的をはっきりさせ、関係者全員と共有する
ある団体または事業のなかで「子ども参加」をどのように位置づけるか、子どもに対して参加の門戸を開く目的は何かについて、最初の段階ではっきりさせておくことは子ども参加を進めるときの大前提です。そして、その位置づけと目的を、参加する子どもたち(およびその保護者)も含む関係者全員のあいだで常に共有・確認していく必要があります。
そのためには、最低限、次のような点について最初の段階で検討するとともに、参加してきた子どもたちともあらためて検討・確認していかなければならないでしょう。
*団体の活動方針そのものに「子ども参加」を位置づけて中長期的にとりくんでいくのか? それとも特定の事業についてのみ子どもに参加してもらうのか?
*特定の事業について子ども参加を進めようとする場合に、その事業は(a)「子ども参加」の推進そのものを主として目的としたものなのか? (b)「子ども参加」とは別の独立した目標を、子どもたちとともに達成しようとするものなのか? あるいは(c)その両方を同じぐらい重視し、子どもが主体となってなんらかの目標を達成することを目指すものなのか?
*子ども参加をともなう事業を行なうことによって、その団体はどのような利益(例:目標の効果的達成etc.)を得ようとしているか? また、その団体・事業に参加する子どもにとってはどのような利益(例:達成感/他の子どもたちとの交流etc.)があるか?
*事業を進めることを第一に重視するのか? それとも参加する子どもたちにとっての「居場所」になるという側面も重視するのか? 後者を選ぶとしたら、「居場所」の側面をどの程度重視し、事業の推進とのバランスをどのようにとるか?
*どんな子どもでも希望すれば参加できるようにするのか? それとも、事業の目的や性質に照らしてなんらかの参加資格(例:年齢/性別/語学の力/特定分野についての知識・経験etc.)を設けるのか? その参加資格にはある程度柔軟な例外を認めるのか? 語学や知識・経験など主観的な判断が必要になる場合に、だれがどのように判断するのか?
2.子どもが関わる(関わることのできる)範囲を明確にしておく
子ども参加の位置づけと目的に照らして、子どもが関わる(関わることのできる)範囲を早い段階で明確にしておくことも重要です。どんな団体・事業にも、それぞれの趣旨・目的、一定の意思決定手続、決まった予算とスケジュール、こなさなければならないさまざまな実務、用意できる人的・組織的体制の限界があります。これらのうち、(a)どの部分については子どもの意見で変えられる(変えられない)のか、(b)どの部分については子ども参加がどうしても必要(なるべくあったほうがいい)のか、(c)どの部分についてはおとなが完全に担当するのかといった点について、あらかじめ検討・確認しておかなければなりません(意思決定手続については4でさらに詳しく述べます)。
そうすることにより、その場の思いつきや流れで「ここは子どもに参加してもらおう」と決めたりして、子どもに戸惑いや無理な負担を強いなくてもすむようになります。また、さまざまな期待をもって参加する子どもたちが、あとから「話が違う」という思いを抱かないことにもつながります。
このようにして、できないことについては、気軽に約束したり、できるという期待を抱かせたりしないことが大切です。また、できる(やってもらう)と約束したことについては、きちんとその約束を守っていく必要があります。一方、子どもが関わる(関わることのできる)範囲を固定的に考えないことも重要です。参加した子どもたちの希望によって事業の趣旨・目的を変更することも、場合によっては適切かもしれません。また、予算や人的・組織的体制についても、おとなが子どもと協力しながらがんばれば広げることができるかもしれません。頭から可能性を閉ざしてしまうのではなく、「本当にできないのか、可能にするためには何が必要か」という点について柔軟に考えてみることも求められます。
3.子ども参加をともなう事業に関わるおとなの役割・資格をきちんと決めておく
事業の遂行に関わるおとな
子ども参加をともなう事業には、多くの場合、さまざまなおとなが関わります。団体の役員など意思決定機関の構成員は、事業に直接関与するかどうかは別にしても、意思決定を行なうことによってその事業に影響を及ぼす立場です。事業を直接進めていくスタッフとしては、独立した担当者(担当チーム)が置かれる場合もあれば、事務局が多くの役割を担う場合もあります。また、子ども参加の側面(子どもとの連絡調整、子どものサポートetc.)を主に担当するスタッフを別に確保しておくことも、多くの場合には必要です。また、実務的な面についてはボランティアに多くを依拠することも考えられます。
これらのさまざまなおとながそれぞれどのような役割を果たすかについては、あらかじめきちんと検討・確認しておかなければなりません。そうしなければ、事業をスムーズに進めていくことがむずかしくなりますし、子どもの側でも、だれに何を言えばいいのか、だれにどういうことを期待できるのかといった点について混乱してしまいがちです。
そして、それぞれの役割を担うためにどのような知識・経験・スキルが求められるのかについてもはっきりさせ、適切な人材を割り振らなければなりません。ただし、子どもに日常的に接するスタッフについては子どもから信頼されること、言い換えれば子どもから「選ばれる」ことが大切なので、最初に決めた担当者に固執しないこと、自分には無理だと思ったら率直にそのことを申し出ることも必要でしょう。また、それぞれの知識・経験・スキルをさらに高めていくための機会を、個人としても組織としても確保することも大切です。
とくにボランティアを募集するときには、どのような役割を期待しているのか、そのためにどのような知識・経験・スキルが必要とされるのか、またボランティアの側からは何を期待することができるのかについて、募集の段階からはっきりさせておかなければなりません。
子ども参加をともなう事業に関わるスタッフ(ボランティアを含む)のなかには、ときとして、子どもたちをサポートするというよりも、子どもたちに接することによって自分自身の癒しやエンパワーメントを(無意識のうちに)求めようとしていることもあります。もちろん子どもとおとながおたがいにエンパワーしあうことは望ましいのですが、おとなの側のエンパワーメントが優先されてしまっては、子どもたちを利用していることになってしまいます。自分が無意識のうちにそういう気持ちを持っていないかどうか振り返るとともに、解決すべき問題が自分のなかにあることを自覚したら、子どもたちに依存するのではなく、別の場所で解決を模索することが必要です。
事業が進むにつれ、その事業固有の課題は少なからず生じます。子どもたちへの対応について話し合ったり、ときには支えあったりできる関係あるいは体制を、おとなのなかに意識的につくっておくことが大切です。役割分担のうえで子どもと直接対応するおとなが存在しますが、その人だけが一身に課題を背負ってしまうのは、子どもにとってもそのおとなにとっても良くありません。
参加者としてのおとな
また、おとな自身も事業主体の一部となって子どもとともに事業を進めていくのか、それともおとなは子どものサポート役に徹するのかという問題もあります。どちらの方針をとるかによって適切な進め方も異なってきますので、この点もよく検討・確認しておかないといけません。とくに、「子ども」(一般的には18歳未満)と「若者」(一般的には18歳以上25~30歳未満)の両方に参加を呼びかけるときには注意が必要です。子どもに近い年代である若者が参加する場合、どちらの役割が期待されているのか(どちらの役割を期待できるのか)が曖昧にされてしまいがちだからです。
事業の内容・性質によっては、事業の過程で行なわれるイベント等に、一過性の形でおとなが参加してくることもあります。たとえば、討論会や交流集会がおとなに対しても開かれている場合などです。その場合にも、その会は子どもが討論・交流することを目的にしたものでおとなはオブザーバー(基本的には話を聴くだけ)なのか、それともおとなも子どもといっしょに発言することができるのかといった点について、告知の段階からはっきりさせるとともに、会の冒頭でも確認しなければなりません。おとなも発言できるのだとすれば、発言者の優先順位(子どもが発言したいときはそちらを優先するetc.)、発言の時間・内容・方法などについても確認しておく必要があります。
4.意思決定の手続をはっきりさせるとともに、その情報の共有と合意形成のプロセスを大事にする
意思決定の手続(だれが、いつ、どのように、何を決定するのか)をはっきりさせ、情報の共有と合意形成のプロセスを大事にすることは、民主的な運営を進めていこうとする組織にとって基本的なことです。子ども参加を進める場合でもそのことは変わりませんし、むしろいっそう民主的な手続・運営を大切にすることが求められます。
だれがどこまで物事を決められるのかについては、あらかじめ子どもたちを含む関係者全員と検討・確認しておかなければなりません。最終的な決定を行なう機関(理事会・運営会etc.)にも、子どもが複数参加していることが望ましいでしょう。ただし、そこに参加する子どもが圧迫感を覚えて言いたいことが言えなくなったりしないよう、5で述べるような配慮を充分にしなければなりません。また、そこで子どもが述べる意見が、子どもたちのあいだの話し合いを通じて子どもたちの代表として述べられているものなのか、その子ども個人の意見なのかをきちんと区別することも必要です。他の子どもたちから、オブザーバーとして参加して傍聴・意見表明したいという要望があれば、特段の事情がないかぎり受け入れるべきでしょう。
決定権のありかがはっきりしたからといって、決定権を持っている人(機関)が自由に物事を決めていいということにはなりません。判断を行なうために必要な情報をできるかぎり共有し、それぞれの意見を集約しながら合意を形成していくことが必要です(ただし、情報の共有にあたってはプライバシーの保持などにも配慮することが求められます)。
とくに、子どもに重要な影響を及ぼす決定については、参加している子どもたち全員の意見をきちんと聴き、できるかぎり全員の理解を得られるような形で決めることが重要になります。また、決定事項については、話し合いのプロセスに参加できなかった子どもたちも含めて、そのように決まった経過と理由を説明することが求められます。
合意形成のプロセスを大事にするためには、そのためのルールを確認・共有しておくことも大切です。たとえば、何か企画を提案するときには企画書の形にまとめて提出するという原則を決めておくと、おとなの側からの提案も子どもたちからの提案も具体的に議論しやすくなります。なお、企画書に不備があっても、それをよりよいものにしていくという方向で話し合いをすることが大切です。また、多数決は基本的に避け、全員が納得できるような結論に達することを目指すべきでしょう。少数意見を大切にするという原則を踏まえ、会議の冒頭に「話し合いのルール」を確認しておくことも有益です。
*「話し合いのルール」の例
-発言するとき:一人で長く話さない、反対意見が出しにくくなるような威圧的態度をとらないetc.
-発言を聴くとき:発言者に集中する、話を聴いていることが相手に伝わるよう心がける(うなづきながら聴くなど)etc.
5.子ども観を共有するとともに、子どもには特有のニーズがあることに配慮する
国連・子どもの権利条約に体現された「子どもは権利の主体である」という子ども観を共有しておくことは重要です。おとなは、無意識のうちに子どもを軽く見ている場合があります。たとえば、子どもが発言したときには理解・賛成しないのに、おとなが(あるいは専門家が)同じ趣旨のことを言ったら理解できるというのは、そのような子ども軽視の表れと言えるでしょう。子どもの発言の趣旨がよくわからない場合には、適切な質問をするなどして、本当は何を言いたいのかを理解するように努める必要があります。
一方で、子どもには子ども特有のニーズがあること、また子どもひとりひとりにも異なったニーズがあることを踏まえておくことは、決定的に重要です。子どもとおとなは「人間として同じ」ではあっても「同じ人間」ではありません。社会的な立場の違いや、おとな-子ども間の権力関係も存在しますし、子どもにはおとなとは異なる特有のニーズも存在します。たとえば、子どもは必ずしもおとなと同じペースで物事を進められるわけではないこと、一般的にはおとなよりも傷つきやすく、経験や訓練も不足していることなどです。
こうした違いを無視して子どもを「同じ人間」として扱うことは、子どもを傷つけることにつながる可能性があります。
そのようなことがないよう、話し合いなどの場では、子どもが自由に意見を言える雰囲気があるかどうか、常に確認することが必要です。たとえば、子どもが何人かしかいなくて残りの参加者はおとなばかりであった場合、子どもは威圧感を覚えて意見を言えなくなってしまうかもしれません。事前に子どもだけの話し合いの機会を設けてその結果を報告してもらう、子どもがおたがいにサポートしあえるような人数の参加を保障するなどの配慮が必要です。4で述べた「話し合いのルール」も、おとながかなり意識して守ることが求められます。
また、子どもからの意見は、たとえ自分が賛成できない場合でもまず共感をもって受けとめることが大切です。すぐに反対意見を言ったりすれば、その後の発言を押さえこんでしまうことにもなりかねません。多数の人が参加する場では、子どものニーズに対する配慮を全員が共有することはむずかしい面がありますが、そのような場合には、司会、議長、スタッフなどが子どもをサポートすることが大切です。
このような一般的な子どものニーズのほかに、ひとりひとりのニーズの違いもあります。たとえば、これまでにその事業に参加してきた子どもと新しく参加してきた子ども、あるいはほかの場で活動した経験のある子どもとそのような経験がない子どもでは、物事の進め方、会議のやり方、問題の認識などについてギャップがあることは避けられません。子どもたちをサポートするスタッフは、そのようなニーズにも配慮しながら事業の遂行や話し合いをコーディネートすることが求められます。子どもたちだけで話し合いをしたら意見を言いにくい子がいそうな場合には、おとながサポートスタッフとして話し合いの場に参加することも必要かもしれません。
6.子どもの感情表明を大事にするとともに、心理的負担へのケアを充分に行なう
子どもにかぎらずおとなでも、怒ったり、泣いたりといった一見ネガティブな感情を表出させることがあります。けれども、こうした感情はかならずしもネガティブなものではなく、ひとつの自己表現です。その感情表明を大事にし、その感情がどこから出てきたものなのか、背景にあるメッセージは何なのか、隠れている問題はどのようにすれば解決できるのかといった点をともに模索することによって、建設的な方向に踏み出せることは少なくありません。
怒りや悲しみといった、これまでネガティブなものと考えられてきた感情をおたがいに大事にし、建設的なエネルギーへと変えていくための努力が必要です。自分や他人の感情に向き合うことはときに非常に困難ですが、感情との建設的なつきあい方を学習しあっていくこと、しんどいときに支えあえるような関係・体制を整えておくことなどが求められます。
また、活動・事業を進めていくなかで、子どもたちが大きな心理的負担を負う場面が生じることもあります。たとえば、ワークショップをするなかで自分の過去や内面を振り返ることは、きちんとしたケアの体制が組まれていなければ、心に深い傷を残したままになる可能性があります。また、不登校、差別、虐待、いじめなどで自分が悩んだり傷ついたりした経験を人前で話すことにも、大きな心理的負担がともないやすいものです。
こうした機会を設けるさいには、充分な知識・経験・スキルを持ったファシリテーターを確保する、ワークショップ等のあとに心のケアのための時間を設けるなど、充分な配慮と体制を整える必要があります。また、企画・運営メンバーがワークショップにこれまであまり参加したことがなかったりする場合には、実際にワークショップに参加してみることも重要な経験と言えるでしょう。
7.子どもたちが置かれている現状を充分に知っておく
国際協力活動などを行なう場合に、協力・支援の対象である相手国の子どもたちの状況をよく知り、学び続けていかなければならないことは、だれもが当然だと思うでしょう。けれども、活動に参加してもらう日本の子どもたちの状況については、直接関係ないと考えるためか、あるいはひととおりのことは知っているという思いこみがあるためか、理解を深めようとする努力はあまり行なわれない傾向があるようです。それでは、参加する子どもたちのニーズを充分に把握できなかったり、不用意な発言で子どもを傷つけてしまったりする可能性があります。また、世界の問題と日本の問題がどのようにつながっているかという点について目が向けられず、表面的・一方的な活動になってしまったり、相手国の子どもと深い交流ができなくなったりしてしまうかもしれません。
たとえ国際協力活動であったとしても、日本の子どもたちに参加してもらう以上、日本の子どもたちが置かれている状況についてもよく知り、学び続けていくことが必要です。
また、日本の子どもどうしでも、置かれている状況はひとりひとり異なります。とくに、学校に行っている子と不登校の子のあいだで「学校」のとらえ方が大幅に違い、話し合いや活動の場ですれ違いが生じることなどは少なくありません。そのような事態を避けるためにも、参加する子どもどうしがおたがいの置かれている状況を理解し合えるような環境も、用意する必要があるでしょう。
8.効果的な子ども参加を可能にする充分な組織的体制を整える
これまで述べてきた原則を守りながら子ども参加を進めていくためには、それだけのしっかりした組織的体制を整えておくことが不可欠です。子ども参加には、それをサポートするおとなの側に充分な時間と余裕がなければなりません。そのため、必要なスキルを備えた人材を充分な人数だけ確保すること、役割分担をはっきりさせること、無理なスケジュールを立てないことなどが大切です。
子ども参加をサポートする担当者が他にも多くの仕事を抱えすぎたり、そのようなサポートをボランティアだけに依存したりすることは、参加する子どもたちにしわよせを強いる可能性があります。
また、継続的な事業として子ども参加を位置づける場合には、事業の持続可能性について現実的な見通しを持っておくことも必要です。
参加の権利は子どもの権利条約を構成する権利概念のうちの、主要なものの一つです。子どもの権利条約の理念に基づいて子どもたちの状況をより良くしていこうと活動する時、その子どもたちには参加の権利が当然保障されるものと考えられます。
しかし一方で、5.で指摘しているように子どもには特有のニーズがあり、そのようなニーズへの配慮なしに子ども参加を実践するのは、子どもを傷つけることにつながります。
私たちには、理念をどのように実現するのかが、問われています。